生成AIは、文章作成や情報整理、プログラミングなど、さまざまな業務で活用されるようになってきました。
企業でも生成AIの導入が進んでいます。
一方で、企業で生成AIを利用している方から、「個人で使っている生成AIと比べると、なぜか使いにくい」という声を聞くことがあります。
今回は、実際に聞いた利用者の声をもとに、企業で利用する生成AIと個人で利用する生成AIでは、なぜ「使い勝手が違う」と感じることがあるのかを考えてみたいと思います。
「作ってほしい」のに、作り方の説明が返ってくる
今回聞いた中で印象的だったのが、プログラミングで生成AIを利用した際の体験です。
たとえば、「○○の処理をするコードを作ってください」とお願いしたとします。
利用者としては、そのまま参考にできるコードを生成してもらい、必要に応じて修正しながら仕事を進めたいところです。
ところが、利用していた企業環境では期待した完成形がなかなか提示されず、「まず○○を確認してください」「次に○○を設定します」「このような手順で作成できます」といった、「自分で作るための説明」が中心になってしまうことがあったそうです。
もちろん、手順を理解したい場合には非常に有用です。しかし、「今回は説明よりも、まずコードを作ってほしい」という場面では、少しもどかしく感じてしまいます。
「もっと簡潔に」とお願いしても長い……
もう一つ挙がったのが、回答量の問題です。
生成AIが丁寧に説明してくれること自体は悪いことではありません。しかし、仕事中にちょっとした確認をしたいだけなのに、非常に長い説明が表示されると、その内容を読み込むこと自体が新しい作業になってしまいます。
「もっと短く説明してください」「手順ではなく、必要な部分だけ教えてください」とお願いしても、期待している回答にならないことがあったそうです。
生成AIは本来、業務を効率化するために使いたいものです。それなのに、「AIの回答を読むために時間がかかる」という状態になってしまえば、便利なはずの生成AIが逆に負担になってしまう可能性があります。
個人で使う生成AIでは「自分に合ってくる」と感じることも
一方、個人で対話型の生成AIを継続して利用していると、「以前より自分が欲しい回答を返してくれるようになった」と感じる方もいると思います。
これは単純に「AIがその人専用に再学習している」という意味ではありません。
生成AIサービスの中には、利用環境や設定によって、過去の会話やユーザーの好み、目標などの関連情報を利用し、回答をパーソナライズする仕組みを持つものがあります。
たとえば、「長い説明より、まず結論がほしい」「専門用語は理解できるので基礎説明は省いてほしい」「以前から進めているプロジェクトの続きを相談したい」といった利用を続けることで、毎回すべてを一から説明しなくても、これまでの文脈を踏まえた回答を得られる場合があります。
こうした違いは、生成AIを日常的に利用すると意外と大きく感じます。
では、企業向け生成AIには「記憶」がないの?
ここは注意が必要です。
「企業向け生成AIだから利用者に合わせることができない」と単純に考えることはできません。
生成AIサービスによっては、会話履歴やユーザーの仕事・好みに関する情報、カスタム指示などを利用して回答を調整できる仕組みがあります。
ただし、企業で使用する場合には、契約しているサービスやプラン、利用できる機能、組織側の管理設定、セキュリティポリシーなどによって利用環境が異なる場合があります。
つまり、特定の製品だから自分に合わせてくれないというより、「同じ生成AIでも、利用している環境によって体験が大きく異なる可能性がある」と考える方が適切でしょう。
企業では「便利さ」だけを優先できない
企業が生成AIを導入する場合、個人利用とは異なる事情もあります。
企業では、機密情報、顧客情報、社内資料、メール、チャットなど、さまざまな情報を取り扱います。
そのため生成AIについても、「どの情報へアクセスできるのか」「入力した情報をどのように扱うのか」「誰にどの機能を利用させるのか」「セキュリティやコンプライアンスをどう確保するのか」といった点を考えなければなりません。
利用者にとっての「便利さ」だけを最大化すればよいわけではないのが、企業で生成AIを導入する難しいところです。
生成AIは「導入しただけ」では業務改善にならない
ここで重要なのは、「高性能な生成AIを導入すれば、そのまま仕事が効率化されるわけではない」ということだと思います。
これはRPAなどのDXツールにも共通しています。
高性能なRPA製品を導入しても、実際の業務に合っていなければ十分な効果を得られません。生成AIも同じです。
利用者が何を求めているのか。どのような回答量が適切なのか。どこまで生成AIに作業させるのか。どの情報との連携を許可するのか。そして、セキュリティとのバランスをどう取るのか。
こうした部分まで考えて初めて、生成AIが実際の業務で使いやすいツールになっていくのではないでしょうか。
「AIの性能」だけでなく「使う人」を考える
生成AIを比較するとき、モデルの性能や機能に目が向きがちです。
しかし実際に仕事で使うのであれば、「そのAIがどれだけ高性能か」だけではなく、「利用する人がストレスなく使えるか」という視点も非常に重要です。
詳しく説明してほしい人もいれば、結論だけ知りたい人もいます。コードの考え方を勉強したい人もいれば、まず動くコードを作ってもらい、そこから修正したい人もいます。
生成AIの導入を考える際には、セキュリティや機能だけでなく、「実際に利用する人にとって使いやすい環境になっているか」まで確認することが、生成AIを業務で活用するための重要なポイントだと考えます。
読み込ませた資料を、すべて参照しているとは限らない
生成AIを業務で利用する際には、もう一つ注意しておきたい点があります。
複数のCSVやExcel、PDFなどを順番に読み込ませて分析を依頼した場合、利用者としては「アップロードした資料をすべて参照して分析している」と考えがちです。
しかし、生成AIには一度に扱える情報量に限りがあります。会話が長くなったり、読み込ませるファイルやデータ量が増えたりすると、先に与えた情報を十分に参照できなくなる場合があります。
例えば、複数のCSVファイルを順番に読み込ませて比較を依頼したところ、途中から先に読み込ませたファイルの内容を十分に参照できなくなった、というケースも考えられます。
ここで注意したいのは、AIが回答を返しているからといって、必ずしも「渡したすべてのデータを確認したうえで回答している」とは限らないことです。
特に業務データの比較や集計では、一部のファイルが分析対象から抜けていても、もっともらしい分析結果が返ってくる可能性があります。そのまま業務判断に利用すると、結果の信頼性にも影響します。
これは特定の企業向け生成AIだけの問題ではなく、生成AI全般で意識しておきたいポイントです。また、実際に扱える情報量やファイルの参照方法は、利用するサービスや契約、企業側の設定などによっても異なります。
大量の資料を扱う場合には、「すべてのファイルを参照できているか」を確認したり、データを適切な単位に分けて処理したりするなど、AIの特性を理解した使い方が重要になります。
【実践編】「使いにくい」を改善するには何を伝えればよい?
生成AIの使い勝手は、契約や管理設定、利用目的、指示の出し方によって変わります。組織の安全設定を回避するのではなく、許可された範囲で用途に合う運用を考えることが大切です。
利用者が試せる指示の工夫
| 困っていること | 依頼の具体例(機密情報を含まない架空の題材) |
|---|---|
| 回答が長すぎる | 「まず結論を3行で。詳しい理由は最後に箇条書きで」 |
| 必要な形式で返らない | 「列名は『作業・担当・期限』、3行の表形式で」 |
| 説明だけで成果物が出ない | 「まずサンプル案を示し、その後に注意点と確認手順を示して」 |
| 複数ファイルの分析が不安 | 「先に参照対象ファイル名と件数を一覧化し、不足があれば分析前に知らせて」 |
ただし、サービス側の制約や組織ポリシーによっては、指示を工夫しても期待した形式で出力できない場合があります。そのときは制約を回避せず、管理者に相談しましょう。
複数CSVを扱う場合の検算
- 分析に使うファイル名・対象期間・想定行数を、人が先に把握する。
- AIに参照したファイルの一覧と処理対象件数を示してもらう。
- 元データの合計値や件数と突き合わせ、差分があれば原因を確認する。
- 重要な集計は、ExcelやSQLなど再現可能な方法でも検証する。
AIによる回答が自然に見えても、分析対象がすべて含まれている保証はありません。業務上の重要な数字は必ず検算しましょう。
管理者への相談メモ
- どの業務で、どのような成果物を作りたいか。
- 現在どの機能・ファイル形式が利用可能か。
- データ分類上、扱ってよい情報はどこまでか。
- 必要な機能を使うための正式な申請先はどこか。
- 利用者向けの簡易手引きや共通プロンプトを用意できないか。
同じ製品でも利用環境により機能は異なります。製品の優劣を断定せず、「その職場の業務を安全に支援できているか」を基準に改善していくことが重要です。
まとめ
今回の体験談から見えてきたのは、生成AIの性能と、利用者が感じる使いやすさは必ずしも同じではないということです。
個人で利用している生成AIでは非常に便利だと感じていても、企業環境では同じ感覚で利用できないことがあります。
しかし、それだけで「企業向け生成AIは使いにくい」と結論づけるべきではありません。
利用しているサービス、契約内容、組織側の設定、セキュリティポリシー、パーソナライズ機能、そして利用方法など、さまざまな要素によって生成AIの使い勝手は変わります。
「とりあえずAIを導入する」のではなく、「このAIを使って、誰の、どの仕事を、どう楽にしたいのか」を考えること。
それが、本当の意味で生成AIをDXにつなげる第一歩なのかもしれません。
※本記事は、生成AIを業務で利用した方から聞いた体験や意見をもとに、一般的な生成AI活用について考察したものです。特定の企業・製品・利用環境について評価することを目的としたものではありません。また、生成AIの機能や利用可能な設定は、サービス・契約・組織の設定等によって異なります。
